俺はさすらいのカメラマン (オランダ編)
~ AMSTERDAM にて 9 ~
『チャンミン どういうこと?』
わけが分からなくて
このまま帰るわけにはいかないと思った
チャンミンを問い詰めると
ぼそぼそと話し出した
チャンミンは俺と同じ韓国人でソウルの出身だということ
ゲイの恋人がいたが回りに知られて
酷い扱いを受けたこと
親戚のいる この地に来て2ヶ月ほど
語学学校に通いながらアルバイトをしていること
飾り窓で働くつもりで部屋を借り始めてから
まだ2週間しか経っていないこと
『何で? 俺が初めてなの?』
「その・・・韓国で前につき合っていた人が
僕を女装させるのが好きで・・・
興奮するって言ってたから
赤いドレスを着てみたら
一番初めのお客さんに殴られて・・・
腫れが引くまで家に引っ込んでたから」
なんと
そりゃあ そうだろ
ここは男が女を買うところだ
いくらチャンミンみたいに綺麗でも
女と思って入ってきたら男だったなんて
俺だって キレたんだから・・・
だから?
久しぶりに窓に立ったときに
来た俺が初めての客だと
そういうことか
『バカだな・・・
なんで そんなことした?』
「女じゃないとわかれば 抱かないで帰ってくれるかなって・・・
いくら僕がゲイでも
知らない人に好き勝手にされるのは
どうしても怖くて 嫌で・・・」
『じゃあ なんで ここで働こうとしたんだよ?』
「こっちでは まだ 友達もいなくて
それに
英語もオランダ語もまだ不自由だったから
あまり話さなくて済むバイトを考えたらこうなって・・・
寂しいし だからせめて身体だけでも
慰められたらいいと思って・・・」
俺は その告白に
盛大なため息を吐いた
『チャンミン もっと自分を大切にしろ
いきなり慣れない外国で危ないだろ?こんなバイト
まあ お前を買った俺が言えた義理じゃあないけど』
少しバツが悪くなって下を向いた
「ユノ・・・?」
『ごめんな・・・
俺が余計に嫌な思いをさせたかもしれないな』
「謝らないで
ユノは悪くない」
『何の事情も知らずに
興味本位で ここに来て・・・
チャンミンの言う通り
何もせずに帰ったほうが良かったのかもな?』
「そんなこと言わないで
僕 実は お兄さん・・・あ ユノのこと
前から知ってたんだ」
『俺を?』
「うん 何ヶ月か前にソウルで個展開いてたでしょ?」
確かに3~4ヶ月ほど前に初めての写真展を開いていた
『まさか 来てたの?』
チャンミンが恥ずかしそうに無言でうなずいた
「僕もカメラに興味があって
友達との待ち合わせまで時間があったから
ちょっと目についた看板に惹かれて
入ってみたんだ」
『そうだったのか・・・
そこに 俺いた?』
「いました
写真も素敵で どんな人が撮ってるのかな?って
思っていたら受付の女の人が
”あの方がチョン・ユンホさんですよ” って
教えてくれた」
『全然知らなかったよ・・・』
「ふふ 当たり前だよ
ユノは知り合いみたいな人たちと
楽しそうに談笑していて
眩しいくらいにキラキラしてたもの」
『で そのまま出て行ったの?』
「うん・・・
その時に 僕はユノに一目惚れしたんだと思う
ずっと頭から ユノのことが離れなくて・・・
あ その時はもう前の人とは別れてたよ
で 次の日 行って見たら
もう個展は終わってて・・・」
『ああ 最終日に来たんだな?
あの日は来客が多くて
一日中 めちゃくちゃ忙しくてさ
せっかく来てくれたのに ごめん』
「カメラマンて
もっとオジサンなのかと思ってたから
若くて驚いたんだ
そして昨日 ここでまたユノを見かけたから
心臓が止まりそうになるくらいビックリした・・・」
『じゃあ 俺だとわかって手招きしたの?』
「ごめんなさい・・・
こんなところで働いている僕なんか
本気で相手にしてくれるはずはないって思ったら
一度だけでも この人と・・・って思いました」
そんなことが あったなんて
予想だにしなかったこと
あの日は本当に来客がひっきりなしで
一見のお客さんとか全く会話する時間はなかったことを
改めて思い出した
俺はチャンミンが更に愛おしく感じた
自分がゲイであることで
傷ついたことも多かっただろう
今まで どんな思いをしてきたのか
どんな決心でオランダまで来たのか
申し訳なさそうに裸で俯く可愛い男を
俺は心を込めて抱きしめた
『チャンミン 明日も来るし 明後日も来る
だから客は俺だけにしてくれ』
「ユノ・・・そんな いいの?
お仕事は?」
『いいんだよ・・・
もうアムステルダムでの撮影は終わったんだ
あと 数日はここにいられるから』
「ありがとう」
あと 数日・・・
自分で言ってから
胸がズキっと痛くなった
チャンミンは これから どうするのだろうか?
俺は どうしたいのだろう?
『風邪ひくよ? シャワーで流そう』
「一緒に浴びても・・・いい?」
遠慮がちに上目遣いで言うチャンミンの
願いを叶えてやりたいと思った
一緒にシャワーを浴びて
キスをしてから
俺は部屋を後にした
チャンミン・・・
振り返ると窓から
ニコっと笑っているチャンミンが
手を振っていた
俺も精一杯の笑顔で大きく手を振って
後ろ髪を引かれる思いでホテルに戻った
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