黒い瞳が邪魔をする 第四幕 39話
Y side
ヒチョル先輩の店は
持ったよりも早くオープンした
俺の勤める会社の最寄りの駅からは
地下鉄で3駅ほど
ソウルでも わりと賑やかな
いわゆる繁華街と呼ばれる地域の一角だった
繁華街と言っても
柄の悪い場所ではなく
若者で溢れかえるというような場所でもなかった
ヒチョル先輩は 相変らず掴みどころがないというか
背景が見えない
中性的な見た目も相まって
存在自体が なんとも不思議な感じのする人だ
オープンを来週に控え
好きな酒をご馳走するから
意見を聞かせてくれないかと言われたのだ
『こんばんは』
”おー ユノ こっちこっち”
呼ばれたものの
既に 営業しているかのような
完璧に仕上がった店内
BGMまで流れて
この状態で意見も何もないのでは?と思うくらいに
素敵なBarそのものだった
『カッコいい店ですね』
”そう?”
『こんなに早く出来上がるとは思ってませんでした
この間 お会いした時には
もう殆ど完成間近だったんですね』
”まあね
前はスポーツバーだった店なんだけど
物件探しをしている時に
丁度 その店の閉店情報が耳に入って来てね
俺 結構 知り合いが多いんだよ”
『わかります
多そうだもん』
”ははは 冗談だよ
ここに座って”
そこそこ広い店内の壁際にあるバーカウンターに案内された
”椅子もカッコいいなあ・・・”
変に足を延ばさないと座れないような
高すぎるスツールではなく
しっかりとして座面の広い
座り心地のいい黒い椅子だった
店内は黒を基調にした
スタイリッシュなインテリアなのに
緊張せずに座れる
テーブルや椅子は低めで
話したり 食べたりしやすいものを選んだのだと言う
”いわゆる 居抜きってやつね
あのスクリーン デカいだろ?
サッカー中継とかしてたみたいなんだけど
この店では 世界中の絶景や癒しの風景を映すことにしてるんだ”
確かに 店内は 証明が明るいわけでもないのに
女性グループでも入りやすいような雰囲気だった
”酒は 何が好き?”
『先輩 俺 実は あんまり強くはないんですよ』
”そうなの? 意外だな・・・”
『良く言われるんですけどね
普段は もっぱらコークハイとか 薄目のハイボール
ビールは この間 3杯飲んだら結構酔っぱらっちゃいました』
”ははは でも 飲めないわけじゃあないんだな”
先輩は お薦めの配合だと言って
ハイボールを出してくれた
『ありがとうございます』
”良かったよ
こんなイケメンでも 弱点はあるってことだ”
『また・・・イケメンじゃないですよ』
”ユノ 大学でも随分目立ってたよ
自分じゃあ そうは思ってないのかもしれないけど
かなり有名人だったよ”
『マジっすか? 嫌だなあ・・・』
”ミスター大学 だったよな?”
『あ・・・』
そう言えばそうだった
あの時に 随分多くの人に声をかけられたことを思い出した
『あれは 友達に勝手に応募されちゃって・・・
もう忘れてくださいよ』
”それは無理だな
あ ちょっと待ってて
ピザ 作ったんだ 持ってくるから”
ヒチョル先輩は
バーのメニューだというピザとサラダ
一口サイズのサモサなどをバックヤードから持ってくると
カウンターに並べた
そして自分もカウンター内の椅子に座り
並々と注がれたビールジョッキを傾けて
俺と乾杯をした
『気に障ったら申し訳ないんですけど
何で俺なんですか?』
”たいして親しくもなかったのに
この間 別な店で偶然会っただけで
どうして急に呼び出したりしたのかって?”
『あ まぁ 平たく言えば・・・
俺は ヒチョル先輩に声かけてもらえて嬉しいですけど』
お世辞ではなかった
大学時代から 不思議な感じの人だと思っていたし
こんな風に 知り合いになれて本当に嬉しかった
”ユノと友達になりたかったからだよ”
『嘘でも 光栄です』
”あ 信じてないな?”
『そんなことは』
あたふたしていると
先輩は ふふふと含み笑いを浮かべ
カウンターから身を乗り出した
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