絶景湯 68℃ (最終回)
僕の予想通り
書類選考は難なく通過した
募集する側の求めるものから
余程かけ離れている人間でない限りは
おそらく誰でも書類選考は通るはずだという
僕の予想はぴたりと当たったようだ
とりあえず
面接に呼ぶのだろう
直接会って話して
その人となりを観察する
区長肝入りの新しい事業ともなれば
採用する側もされる側にも斬新な風が求められるはず
かと言って
あまりに個性が強すぎると和を乱す
僕は地元出身だし
面接まではいけると踏んでいたから
まあ 想定内だ
久しぶりに袖を通したスーツ
全身鏡の前に立つと
それなりに緊張感が顔を出す
自分なりに考えたコミュニティの構想を
面接と言う名の複数名による雑談の場で披露した
就職の面接に行くことを
昨夜ユンホさんに連絡したら
とても喜んでくれて
『頑張れよ』ってスマホ越しに
チュウをしてくれた
俄然 やる気の出た僕は
面接も自分が不思議に思うくらい
スラスラと話すことができて
銭湯がお爺ちゃんの経営であることや
自分自身も銭湯でアルバイトをしていていることを告げると
面接してくれた担当者は
銭湯に行ったことがあると言った
昔ながらの銭湯がなくなることは
個人的には非常に残念だとも言ってくれたから
例え社交辞令だとしても嬉しかった
僕の考えたコミュニティ論も
とても気に入ってくれたようで
何と その翌日には採用が決まった
数日の間にトントン拍子で
就職が決まったと言うわけだ
今までの就職活動は一体何だったのか?と
ポカンと口を開けたくなるような
スムーズな就職だった
“君のような人が欲しかった“ と言われ
自分が必要とされることの嬉しさを
身に染みて感じている
両親やお爺ちゃんお婆ちゃん
そして ユンホさんに
すぐさま合格を伝えると
皆がとても喜んでくれたことも
僕にとっては
頑張る張り合いになるものだった
キュヒョンにも連絡しなくちゃな
大手企業の新卒採用と違って
既卒者の中途採用だったこともあり
内定などと言う言葉はなく
すぐに “採用“ だったことも
一気に肩の荷を下ろす事になり
僕は晴れ晴れとした清々しい気持ちでいっぱい
採用の連絡が来た日が金曜日だったため
明日がお休みのユンホさんと過ごせると
ワクワクしたのに
肝心なユンホさんは
教授たちの集まりがあるそうで
“今夜は抜けられないし時間も読めない“ と
寂しい返事だった・・・
両親は
週末に就職祝いをしてくれるという
お寿司を食べに連れて行ってもらえる事になり
迷わず日曜日にしてほしいとお願いした
だって土曜日はユンホさんに会いたいんだもの・・・
金曜の晩は
いつも通り銭湯に出勤
今頃
僕の愛するユンホさんは
おじさんたちとの会食中
あまりお酒には強くないから
明日 二日酔いにならないといいな
そんなことを考えながら
もうすぐ営業時間が終わる銭湯の仕事に没頭していた時だった
ガラガラッ
後少しで営業終了という時間に
はあはあと息を切らして飛び込んできた人
「ユンホさん・・・」
『チャンミン!』
「走って来たんですか?
こんなに汗かいて・・・」
『どうしても今日
お祝いが言いたくて』
「僕に?」
『そう チャンミンに
就職おめでとう 良かったな』
「ありがとう ユンホさん
明日まで逢えないと思ってたから
すごく嬉しい」
『こらこら 涙ぐむ奴があるか』
「嬉しいんだもん・・・」
じわりと滲む涙で
目の前のユンホさんの顔がぼやけてしまう
グスンと鼻を啜る僕を
ユンホさんは優しくふわりと抱きしめてくれた
“コホン!“
脱衣所には まだ見知らぬお客さんがいたこと
すっかり忘れていた
どこの人かわからないけれど
皺だらけのお爺ちゃんが
怪訝そうな顔で僕たちを見ていた
ハッと身体を離して
照れくれそうに笑うユンホさん
ハグくらいは誰でもしているから
特に やましい場面を見られた訳ではないことに安堵する
ユンホさんは
咳払いをしたお爺さんをチラッと見て
こちらを見てないことを確認すると
僕の耳に口を寄せた
『もう少しでキスしちゃうところだったな』
かあーっと真っ赤になった僕の顔を見て
『風呂から上がるまで お預けだな』
それはもう にこやかな笑顔で・・・
ああ あなたのその笑顔が
僕を骨抜きにするんだ
ユンホさんは
暑い暑いと言いながら急ぎ服を脱ぐ
1枚ずつ 服を脱いでいくユンホさん
あらわになっていく美しい身体を
僕は 番台の上から眺めていた
均整のとれた本当に美しい身体
ユンホさんは
僕が羨望の眼差しで凝視していることなんて
全くお構いなしに
『汗かいちゃったからな
風呂 行ってくるよ』って
僕にヒラヒラと手を振りながら
洗い場へ入って行った
引き締まったお尻を僕に向けながら・・・
今夜も絶景だな・・・
新しい仕事に通うまで後少し
銭湯から離れるのは とても寂しい
僕のために走って来てくれたユンホさんと
今夜は一緒に過ごそう
そして
ベッドの上でも
2人で絶景を見るんだ
僕は 番台の上で目を閉じた
銭湯独特の匂いが
僕を包んだ
【絶景湯】終了
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